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May 10, 2022by Mamoru Kakuda

2022年4月1日,CAFCはクレーム解釈が内在的記録で明確な場合にはクレーム解釈に外部証拠を考慮しないことを再確認する判決をしました (Genuine Enabling Technology v. Nintendo Co., Ltd. (Fed. Cir. April 1, 2022))。

Genuine社はコンピュータリソースを効率的に利用する新しい種類のユーザー入力デバイス(例えば,マウスなど)に関する特許を有していました。その実施形態は,ユーザー入力デバイスがマイクからの音声入力を直接受け取り,音声出力をスピーカーに送信することにより,コンピュータのサウンドカードを不要とするものでした。Genuine社はNintendo社がその特許を侵害しているとして,デラウエア州区連邦地方裁判所に提訴しました。本件は,のちにワシントン州西部地区連邦地方裁判所に移送されました。

特許のすべてのクレームは要件として “input signal(入力信号)” を含んでおり,この用語の解釈が争点となりました。

本件特許の審査中,審査官は,余分なI/Oポートを使用しない生理学的反応検出機能を統合したポインティングデバイス(マウス,スタイラス等)を開示している特許(Yollin特許)を引用し,本件のクレームはYollin特許から自明であるとして,拒絶理由を発行しました。Yollin特許で使用可能な生理学的反応センサーには,ガルバニック皮膚反応(GSR)センサー,筋電計(筋肉の緊張),心電計(心臓の活動),脳波計(脳の活動),温度計(皮膚の温度),血圧センサーなどが含まれていました。

本件特許の発明者は,Yollin特許で議論された「ゆっくり変化する」生理学的反応信号と,本件特許発明が意図する「オーディオまたはそれよりも高い周波数を含む信号」とは異なるものであると主張しました。そして,Yollin特許は,生理的応答センサから来るゆっくり変化する信号を受信するための構成しか使用しておらず,その代わりにオーディオ以上の高周波を含む信号を受信するために使用する動機付けがない,と主張しました。審査官は発明者の議論を受け入れ,クレームを許可しました。

連邦地裁で,Genuine社は, “input signal” は,「オーディオまたはそれよりも高い周波数を含む信号」と解釈すべきと主張しました。一方,Nintendo社は,発明者は,発明をYollin特許と区別することにより,500Hz以下の信号を放棄した,と主張しました。Nintendo社は,その根拠として,Yollin特許に開示されているような生理学的センサーの特徴および動作を論じたHoward Chizeck博士の宣誓書を提出しました。Chizeck博士は,他の文献から引用した,筋電図の10〜500Hzの範囲を含む,様々な生理現象に関連する信号の周波数範囲を示すチャートを添付し,このチャートに基づいて,Yollin特許によって記述された生理学的センサーからの信号の最大周波数は,少なくとも500Hzである,と証言しました。

Nintendo社は,連邦地裁が “input signal “に関するNintendo社のクレーム解釈を受け入れることを前提に,非侵害の略式判決を求めました。連邦地裁は,すべての主張された請求項における “input signal” の限定を,「500Hz以上の信号であって,位置変化情報,ユーザー選択情報,生理的反応情報,その他のゆっくり変化する情報から生成される信号を除く」と解釈しました。このクレーム解釈に基づき,連邦地裁は非侵害の略式判決を下しました。Genuine社はCAFCに控訴しました。

CAFCは,以下の理由で,連邦地裁のクレーム解釈を覆し,その判決をreverseかつremandしました。

    1. クレーム解釈においては,内在的な記録を考慮しなければならず,明確な場合には従わなければならない。連邦地裁がクレーム解釈を専門家の証言などの外部証拠に依拠することが認められる場合もあるが,外部証拠は裁判所が特許を理解するために使用されるものであり,クレームの条件を変更したり矛盾させたりするために使用されるものではない。特許文書が曖昧でない場合,クレームの意味に関する専門家の証言は重視しない。
    2. Prosecution disclaimerの原理は,特許権者が審査中に放棄した特定の意味をクレーム解釈によって再度獲得することを排除するものである。審査中の声明がクレーム範囲の否認として適格であるためには,「合理的な明瞭性と熟慮を示す程度に明確」であり,「否認の明確な証拠となる程度に紛れないもの」でなければならない。その声明が曖昧であるか,複数の合理的な解釈が可能であるある場合,prosecution disclaimerは成立しない。
    3. 本件の場合,記録上,明確かつ紛れないクレーム範囲の否認は,発明者によるオーディオ周波数以下の信号についてのみである。発明者は,Yollin特許が「ゆっくり変化する信号」を開示しているのに対し,本件特許の発明は「オーディオまたはそれより高い周波数」の信号を含んでいるという理由で,自身の発明をYollin特許と繰り返し区別している。審査官がこの区別を受け入れ,結果としてクレームを許可したことは,発明者と審査官がこの点に関して合意に達したことを示唆している。
    4. 500Hzの閾値に関しては,連邦地裁は,専門家の証言に依拠し,内在的な記録では想定されていない方法でクレーム範囲を限定した点で誤っている。Genuine社が指摘するように,500Hzの周波数閾値は内在的記録のどこにも根拠がなく,代わりにChizeck博士が別の外部文献から割り出したものである。したがって,連邦地裁は外部証拠に外部証拠を重ね合わせて,内在的記録のどこにも示唆されていないクレーム範囲に明瞭な線を引いたことになる。そのような証拠は,発明者がオーディオ周波数スペクトル以下の信号のみを否定したことの明確さを覆すことはできない。
    5. したがって,我々は,’input signal”の適切な解釈は,「オーディオまたはそれ以上の周波数を有する信号」であると結論付ける。よって,連邦地裁が下した非侵害の略式判決を破棄し,本意見に沿った審理を行うために連邦地裁に差し戻す。

この判決のように,内在証拠から導かれるクレーム解釈が明確である限り,外部証拠が考慮されることは基本的にない,と考えるべきです。また,審査中のそのstatementが曖昧であるか,複数の合理的な解釈が可能である場合,prosecution disclaimerは成立しない,という点にも注意が必要です。

by Mamoru Kakuda

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