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March 24, 2021by Mamoru Kakuda

2021年2月11日、CAFCは、抗体についての機能クレームが、実施可能要件を満足しないために無効であると判断する判決を出しました (Amgen Inc. v. Sanofi, Aventisub LLC (Fed. Cir. Feb.11, 2021))。

LDLコレステロールは心臓病と関係するといわれています。LDL受容体はLDLコレステロールを除去する働きをしますが、PCSK9はLDL受容体と結びついてその働きを阻害します。Amgen社は、PCSK9と結合することによって、LDL受容体へのPCSK9の結合を抑止し、血中のLDLコレステロール値を低下させるモノクローナル抗体に関する特許を有していました。Amgen 社の特許のクレームは、モノクローム抗体が結合する部位と、モノクローム抗体がPCSK9とLDL受容体との結合をブロックすることを規定していました。

Amgen社はこの特許に侵害するとして、Sanofi社を連邦地方裁判所に提訴しました。最初の陪審裁判で、特許は実施可能要件、記載要件を満足しないとは認定できないとの評決があり、Sanofi社はCAFCに控訴しました。CAFCでは、陪審員へのinstructionに誤りがあるとして、新たな陪審裁判をするようにと、地裁に本件を差し戻しました。

差し戻し審において、陪審員は、再度、特許は実施可能要件、記載要件を満足しないとは認定できないとの評決を出しましたが、裁判所は、Sanofi社のJMOLのmotionを一部認め、特許は実施可能要件を満足していないので、無効であるとの判決をしました。Amgen社はCAFCに控訴しました。

地裁では、本件の分析のために、以下の、いわゆるWands factorsを考慮していました。

(1) the quantity of experimentation necessary,

(2) the amount of direction or guidance presented,

(3) the presence or absence of working examples,

(4) the nature of the invention,

(5) the state of the prior art,

(6) the relative skill of those in the art,

(7) the predictability or unpredictability of the art, and

(8) the breadth of the claims.

Amgen社は、地裁のWands factorsの分析は適切でないと主張しました。特に、専門家証人の証言で示されているように、明細書に記載されたアンカー抗体を使ったロードマップとよく知られたスクリーニング方法にしたがって、または26の実施例に対して公知のアミノ酸置換を実施することにより、クレーム範囲のすべての抗体を作ることができる、と主張しました。

一方で、Sanofi社は、クレームの範囲には、何百万もの抗体が含まれており、明細書は発明を実施するための十分なガイダンスを提供できていない、と主張しました。特に、Sanofi社は、過去の判例によると、実施可能性の判断のためには、クレームの機能を満足するかどうか判断するためにテストしなくてはならない候補の数を調べなくてはならないが、Amgen社はクレームを満足することが実際に知られている抗体の数に着目しているだけである、と主張しました。

CAFCは以下の理由で地裁の判決を肯定しました。

(1) 過去の判例によると、機能的な限定を含むクレームの実施可能性については、限られた数の実施態様について製造/使用するのに必要な実験の量だけでなく、クレームの全範囲について製造/使用するのに必要な実験の量を考慮することが重要である。機能的なクレームが直ちに実施可能要件不満足というわけではないが、機能的表現の範囲が広い場合、実施可能要件を満足するのに高いハードルが課されることになる。

(2) 本件では、開示された実施例に比べ、機能的な多様性において、クレームがはるかに広いことは明らかである。

(3) また、本件の技術分野は、機能的な限定の全範囲について実施可能要件を満足するという観点で、予測可能性が低い分野である。合理的な陪審員であれば、クレームの全範囲について、特許のロードマップが作り出した限られた実施例を超える十分なガイダンスがあるとは結論しないであろう。地裁が指摘したように、開示されていないがクレームされている実施態様を当業者が発見するには、トライアンドエラーが必要になる。クレームされた属(genus)をすべて尽くすために必要な努力の量だけで実施可能性の問題が決まるというわけではないが、開示されている実施例やガイダンスの外側にある実施態様を得るために必要な努力の量を考慮することは適切である。

(4) なお、Amgen社は、地裁の認定はWands判決と矛盾していると主張しているが、Wandsとは事実が異なるので、その主張は採用できない。

本判決によると、特に抗体の分野において機能的なクレームを用いると、実施可能要件を満足するのに、高いハードルが課される可能性があることになります。

by Mamoru Kakuda

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