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November 12, 2020by Mamoru Kakuda

2020年10月23日、Induced infringementにおけるintentの有無は、主観的な心の状態によって判断され、その誘引行為 (induced conduct) が侵害行為でないと信じる客観的合理性があるかどうかでは判断できないことを明らかにしたCAFCの判決が出ています (TecSec, Inc. v. Adobe, Inc. (Fed. Cir. Oct. 23, 2020)) 。

TecSec社は、Adobe社を含む数社をTecSec社のデータネットワークのセキュリティ方法に関する4つの特許に侵害するとして、バージニア州東部地区連邦裁判所に提訴しました。両社は、他の被告に対する裁判で採用されたクレーム解釈を採用すると(ただし、これに関してTecSec 社は控訴する権利を保留)、TecSecがAdobeやAdobeのユーザーがTecSec社の特許をPDFに関する行為を通じて侵害しているということを証明できなかったことに合意しました。それに基づいて、地裁は非侵害の判断をしましたが、その控訴審において、CAFCはクレーム解釈を覆し、さらに審理をするように地裁に差し戻しました。差し戻しの直後、TecSec社の特許は満了しました。地裁では、Adobe社はさらに非侵害のサマリージャッジメントを求め、地裁は非侵害の判断をしましたが、その控訴審でCAFCは、重要な事実に真正な争いがあると判断し、再度本件を地裁に差し戻しました。

2回めの差し戻し審で、Adobe社は101条の特許適格性がないとの抗弁をしましたが、それは地裁に否定されました。陪審裁判の前に、Adobe社は予備的申し立てをし、提訴直後の非侵害の裁判所判断にかかる3つの文書(命令、TecSec社とAdobe社の合意文書、判決)が証拠として許されることをTecSec社が認めない限り、裁判所のクレーム解釈の日(2011年3月3日)からTecSec社の特許の満了日(2013年10月18日)までの、誘引または故意侵害についてのAdobe社のintentに関する証拠を排除するように求めました。Adobe社はこれらの判決や合意は、被告の心の状態に大きく関係し、その期間、誘引侵害の特定のintentが生じることはありえないと、主張しました。TecSec社は、intentは陪審員が判断すべき事実問題であるとして、Adobe社の主張に反対し、また、3つの文書が証拠として認められた場合でも誘引侵害の主張をしないとは言いませんでした。

Adobe社の予備的申し立ての口頭陳述において、地裁は、Adobe社の2011年3月以降の行為に関する証拠を排除する意向を示しました。地裁は、この排除の意向は、誘引侵害の主張にも故意侵害の主張にも適用される、と説明しました。TecSec社は、予備的申し立て書を提出し、証拠が陪審員の前に提出される前に、予備的な決定で実質的な事実に関する争いを解決することはできない、と主張しました。

地裁は、結局、Adobe社の予備的申し立てを認め、2011年3月3日より後はすべての誘引侵害に関する証拠を排除する決定をしました。その理由として、以下の2つが挙げられています。

    1. 2011年のクレーム解釈(後で覆されてはいるものの、合理的であった)の後、Adobe社が誘引侵害に必要なintentを持っていることは法律問題としてあり得ない。
    2. 3つの文書を証拠として認めずに2011年3月以降のAdobe社の行為を証拠として認めると、Adobe社に不利であるし、3つの文書を証拠として認めると、TecSecに不利で陪審員を混乱させる。

TecSec社は、マーキング義務を果たしていなかったことから、提訴前の損害賠償をAdobe社に求めないことに同意したので、陪審裁判の対象は、2010年2月(提訴日)から2013年10月(特許満了日)までの直接侵害の有無、2010年2月から2011年3月までの誘引侵害の有無、等になりました。

陪審員は、Adobe社はすべての特許のクレームを直接侵害しているが、誘引侵害はないと判断しました。地裁は、侵害判断は維持したものの、TecSec社は誘引侵害に基づく賠償額についてしか証拠を提出していないという理由で、陪審員の決定した賠償額をゼロとし、判決を下しました。TecSec社はCAFCに控訴し、Adobe社はcross-appealしました。

CAFCでの一つの争点は、地裁でのAdobe社の予備的申し立てを認める決定が正しいかどうかでした。CAFCは、以下の理由で、地裁の決定を否定しました。

まず、地裁の決定の理由のひとつめに対しては、以下のように述べています。

    1. Induced infringementにおけるintentの有無は、主観的な心の状態によって判断され、その誘引行為 (induced conduct) が侵害行為でないと信じる客観的合理性があるかどうかでは判断できない (Global-Tech Appliances, Inc. v. SEB S.A., 563 U.S. 754, 765–66 (2011)) 。たとえば、今回のケースでは、クレーム解釈が客観的に合理的だったとしても、Adobe社がそのクレーム解釈は誤りであると信じていれば、Adobe 社が、誘引侵害に必要なknowledge を持っていたかもしれない。
    2. 故意侵害においても、CAFCは同様の決定をしてきた。例えば、Halo Electronics, Inc. v. Pulse Electronics, Inc., 136 S. Ct. 1923, 1933 (2016) では、たとえ行為を非侵害とみることが合理的であったとしても、もし侵害者にBad faithがあれば故意侵害になり得ることを判示している。この論理は誘引侵害のintentにも同様に適用される。
    3. 主観的考えと法的合理性との関係についての、別の文脈における最高裁の判決もこの結論をサポートしている。Cheek v. United States, 498 U.S. 192 (1991) では、たとえ、税金の支払いが必要ないという信念が法律問題としては単に不正確でないだけではなく非合理なものだとしても、その信念がgood faithによるものであるかどうかについては、陪審員によって決定することが認められなくてはならない、と判示している。同様に、本件において、被告の主観的なintentは、法律問題として客観的な合理性に基づく答えを出すことはできない。

地裁の決定の理由のふたつめに対しては、以下のように述べています。

    1. 連邦民事訴訟規則403条は、 unfair prejudice やconfusing the issues のある時は、裁判所は証拠を排除することを認めているが、本件では、すべての証拠を排除しており、403条の適用とは本質的に異なっている。地裁は、証拠の全体を検討していないし、また、注意深い陪審員へのinstruction 等、陪審審の混乱を避け、構成な裁判をするための方策も検討していない。
    2. Adobe 社はその主張をサポートする判例をいくつか挙げているが、これらはすべてサマリージャッジメントに関するものであり、裁判所がその問題に関連するすべての証拠を考慮できた。一方、本件では、すべての関連する実質的な証拠を考慮しないと、裁判所は判断できない。
    3. 地裁は、3つの文書を証拠として許可すると、TecSec社に不利であると説明しているが、TecSec社はその証拠が認められたとしても、2011年3月3日以前の誘引侵害の主張をするといっている。地裁は、このTecSec社に対する不利が、2011年3月3日以前の誘引侵害の審理をTecSec社に全くさせないことに値するほど深刻であるという理由を何ら説明していない。

以上のように、Induced infringementにおけるintentの有無は、willful infringementにおけるbad faithのように、主観的な心の状態によって判断され、intentが生じないという客観的合理性があるかどうかでは判断できません。

by Mamoru Kakuda

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