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June 15, 2022by Mamoru Kakuda

2022年5月19日,pre-AIAの§102(a)の引例が“他人”によるものであるかどうかが争点になったケースについて,CAFCが判決を出しています (Google LLC v. IPA Technologies Inc., (Fed. Cir. May 19, 2022))。

IPA社は,オープン・エージェント・アーキテクチャ(OAA)として知られる技術に関する2件の特許を所有していました。両特許とも,David L. Martin氏とAdam J. Cheyer氏が発明者として記載されており,両特許の代表的なクレームは,様々な機能を実行する「ファシリテーター・エージェント」を要件としていました。

審査中で特許庁審査官は,先行技術であると認定したMartin文献に基づき,様々な請求項を拒絶しました。Martin文献の著者には,Martin氏とCheyer氏の他にMoran博士が含まれていました。出願人は,Martin氏とCheyer氏による宣誓書を提出し,Moran博士は「本出願で開示・クレームされている主題の共同発明者ではない」ので,Martin文献の該当部分は「他人」によらないので,§102(a)の先行技術にあたらない,と主張しました。もし,Moran博士がMartin文献の共同著者でなければ,Martin文献は両特許と同じ発明主体によって作られたものであり,「他人による」ものではないので,先行技術にはなりません。審査官は,Martin文献に基づく拒絶を取り下げ,特許は発行されました。

2019年2月,Google社は,両特許の様々なクレームについて,主にMartin文献に依拠してクレームが自明であった,と主張し,IPRの請願をしました。Google社は,Martin文献は,特許の発明主体(Martin氏,Cheyer氏)とは異なる発明主体(Martin氏,Cheyer氏,Moran博士)による発明を記載しているため,「他人による」文献であって,先行技術に該当すると主張しました。

IPRの審理中,Moran博士は,神経損傷のため,「1995年以降,OAAのためにほとんどプログラミングをしなかった」が,「プレゼンテーション,デモシナリオ,資金調達提案,研究出版」の主な責任に加えて,「コードレビューとデザインセッションを行った」と証言しました。一方,Martin氏は,Martin氏の文献の技術的な詳細は自分とCheyer氏が担当し,OAAにおけるMoran博士の役割は「管理的」であったと証言しました。また,Cheyer氏は,「アプリケーションレベル」の技術的問題に対するMoran博士の支援を認めましたが,Moran博士は「OAAのコアアーキテクチャや構造に影響を与えたわけではない」と証言しました。

最終的に,審判部は,Google社は,「Moran博士の貢献を説明するための十分なサポートを提供していない」ため,「Martin文献が,§102 (a)に基づく特許の先行技術だったことを立証できていない」,と結論づけました。Google社はCAFCに控訴しました。

CAFCは,以下の理由で,審判部の先行文献に関する認定を取り消し,本件を特許庁審判部に差し戻しました。

    1. 引例が「他人による」かどうかを決定するために,審判部は以下のことを行わなければならない。Duncan Parking Techs., Inc. v. IPS Grp., Inc., 914 F.3d 1347, 1357 (Fed. Cir. 2019)。
      1. 問題となるクレームの限定をanticipateするために,引例のどの部分が先行技術として依拠されたかを判断する。
      2. その部分が「他人によって」発明された度合いを評価する。
      3. そして,その他人の貢献が,先行技術開示全体に対して測った場合に,当該他人を引例の適用部分の共同発明者とするのに十分なほど重要であるか否かを判断する。
    2. Google社は,審判部が,Martin文献が特許とは異なる発明主体を有することの立証責任をGoogle社に課したのは不適切である,と主張している。しかし,立証責任という用語は,説得責任と証拠提出責任という2つの異なる概念を表すために使用されてきた。説得責任は,最終的な責任であり,相手方に移すことはできない。一方,証拠提出責任は,裁判のどの過程でどのような問題が発生するかにより,移行する。証拠提出と議論は両当事者により行われているが,Google社は,請願者として,特許性がないことを証明する最終的な説得責任を負っており,この責任は決して移行しない。したがって,Martin文献が「他の者による」先行技術であることを立証するようGoogle社に求めた審判部の判断に誤りはない。
    3. Duncan Parkingで認められたように,Martin文献が102(a)の先行技術であるためには,依拠した文献の自明性の立証に関連する部分に対してMoran博士が発明的な貢献をした必要がある。発明者であるかどうかの判断において,「発明者の証言を裏付けることは,我々の判例法において確立された原則」であるが,「発明者は,その宣言を裏付けるために同時期の証拠書類を提出しなければならない」わけではなく,「高度の裏付けが一律に要求される」わけでもない。そして,共著は,共著者を共同発明者に推定するものではないが,共著者が発明に貢献したという重要な裏付け証拠となる。したがって,本件の争点は,Moran博士の証言に対する裏付けが欠如しているかどうかではなく,IPR手続において,Cheyer氏とMartin氏の証言よりも,最終的にMoran博士の証言を信用すべきかどうかであった。
    4. IPA社は,特許の発明者の修正は可能であるのだから,たとえMoran博士が共同発明者であっても,この特許が特許されない理由にはならない,とも主張している。もちろん,Moran博士がMartin文献と本件特許の両方の共同発明者であれば,Martin文献はもはや「別のものによる」先行技術ではないだろう。しかし,特許の発明者とされるCheyer氏とMartin氏は,推定上「真の唯一の発明者」である。IPA社は,特許の発明者であることの訂正を実際に求めない限り,この主張を抗弁として提起することはできない。
    5. したがって,我々は特許庁審判部の引例に関する認定を取り消し (vacate),本件を特許庁審判部に差し戻す。

この判決は,引例発明が他人によってなされたかどうかの判断の道筋を示しています。また,立証責任の考え方も参考になると思われます。

by Mamoru Kakuda

Mamo’s extensive background includes a tenure of over 20 years as an IP professional in a renowned Japanese chemical company. During this time, he developed an elite insight into Japanese companies’ operations and IP practices. Consequently, Mamo is esteemed for his astute counsel which guides his diverse clientele on their best course of action, obtaining patents effectively and efficiently.