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December 17, 2020by Mamoru Kakuda

クレームの構成要件のうち、情報の内容に関するもの (printed matter) であって、他の構成要件に、機能的にも構造的にも関連していないものは、特許性判断の際に考慮されません (printed matter doctrine)。2020年11月10日、printed matter が構成要件に含まれる場合のprinted matter doctrine の適用の仕方について言及したCAFC判決 (C R Bard Inc. v. AngioDynamics, Inc. (Fed. Cir. November 10, 2020)) がでています。

Bard社は、コンピューター断層撮影 (CT) のために造影剤を自動注入するシステムに関する特許を3件所有しており、その特許は、高圧注入のための血管アクセスポートを識別する放射線マーカーの存在を要件としていました。

Bard社が血管アクセスポート製品についてFDAの承認を受けて間もなく、AngioDynamics社も高圧注入に適した血管アクセスポート製品のFDAからの承認を受けました。AngioDynamics社は、識別を容易にするために、当初の製品にはなかった放射線CTマーカーを識別手段として製品に加えました。Bard社は、AngioDynamics社が3つの特許を侵害するとして、デラウエア州区連邦地方裁判所に提訴しました。

AngioDynamics社は、対象特許に特許適格性がないとして、却下の申請をしましたが、まだ審理が熟していないとして、裁判所に否定されました。また両社は特許適格性、新規性、実施可能性についてサマリージャッジメントを求めましたが、裁判所はまだ事実についての争いが残っているとして、サマリージャッジメントのモーションを without prejudice で否定しました。

トライアルに先立ち、裁判所は、magistrate judgeにクレーム解釈の問題について、意見を求めました。その中には、クレームの “radiographic letters” “visually perceptible information”という限定は、printed matter doctrineに照らして、特許判断の際に考慮すべきかどうかという問題が含まれていました。Magistrate judgeは、これらの語は、情報の中身に関するものであり、クレームされたポートには機能的にも構造的にも関連していないので、特許性判断において考慮されるべきでないという意見を出し、裁判所はその意見を採用しました。

トライアル中に、AngioDynamics社は、JMOL (judgment as a matter of law)モーションを提出し、非侵害と、非故意の決定を求めました。AngioDynamics社の根拠は、以下の通りです。(1) Bard 社の専門家の証言は、血管アクセスポートが高圧注入での使用を意図していることを要件とするという、裁判所と異なる不適切なクレーム解釈をしているので、トライアルで決定できるような事実に関する争いを生じさせない、(2) Bard社はAngioDynamics社の製品がクレームの要件を満たすことを証明するテストを行っていない、(3) 方法のクレームについては、一つのentityが直接侵害する直接証拠がない。AngioDynamics社はさらに、故意侵害を示す十分な証拠がないとも主張しました。

このJMOLモーションを裁判所は認め、トライアルを終了し、非侵害と非故意の決定をするとともにクレームは特許適格性のない printed matterに関するものなので無効であると決定しました。裁判所はさらにクレームは無効で、特許適格性がなく、非侵害で、故意でもないという理由でAngioDynamics社のサマリージャッジメントのモーションを認めました。Bard社はCAFCに控訴しました。

CAFCは最初に、事実に関する争いが依然として残っているので、地裁がAngioDynamics社のJMOLモーションを認めたのは誤りであると、認定しました。

次に、CAFCは、Bard社は特許の有効性に関して十分に答弁の機会を与えられていないので、特許の無効性、特許不適格性に関して、JMOLとサマリージャッジメントを認めたのは手続き上誤りであることを指摘しました。そのうえで、地裁の printed matter doctrine に基づく、特許不適格性と新規性の問題についてだけレビューをしました。

CAFCはまず、以下の理由で、クレームされたマーカーによってもたらされる情報の中身は、特許性判断に考慮されないprinted matter であると判断しました。

    1. printed matter は歴史的には印刷物を指すものであったが、現在では、コミュニケーションされる情報の内容すべてを含むものであり、それが、クレームされた発明の構成要素に機能的に関連していない場合は特許されない。
    2. 機能的に関連するかどうかを判断するには、 printed matter が単に人々にクレームされた情報を伝えるだけなのか、または、そうではなく、クレームの他の要素と相互作用してデバイスに新しい機能を生じさせたり、クレームされたプロセスにおいて特定のactionの原因になったりするのかを判断する。
    3. Bard社はクレームがprinted matterを含むことは認めたうえで、その printed matterがポートに自己識別機能という新しい機能を付与すると主張しているが、機能の識別だけでは、新しい機能を構成するのには十分でない。
    4. また、Bard 社はプロセスクレームにおいて、医療提供者はポートの機能の識別子に基づいて高圧注入を行うのであるから、printed matter は高圧注入工程に機能的に関連していると主張してるが、そのような主張をBard社は地裁で行っていないし、またそのような限定がクレームに存在するとは認められない。

特許適格性については、CAFCは、クレームを全体としてみると、クレームされた発明の焦点は、伝達される情報の内容だけでなく、その情報が伝達される手段にもあるので、特許適格性がないとは言えないと判断しました。

新規性については、CAFCは、事実問題に依然として争いがあるので、地裁がサマリージャッジメントを認めたことには誤りがあると判断しました。

このように、printed matter doctrine は印刷物以外にも広く適用される可能性があることに注意する必要があります。そして、クレームに含まれたprinted matter が特許性判断に考慮されるかどうかを判断するためには、クレームの他の要素と相互作用してデバイスに新しい機能を生じさせたり、クレームされたプロセスにおいて特定のactionの原因になったりするかどうかに注目する必要があります。

by Mamoru Kakuda

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